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   【???】「はーいゆーちゃーん、朝だよ起きてー」

     【悠】「んー……」

     【悠】「……あいよー。ばっちり起きまーす」

いつもの間延びした声に体を揺すられて起こされる。

     【悠】「ん、おはようさやねぇ」

    【紗香】「おはようゆーちゃん」

    【紗香】「今日も眠そうな顔がかわいいよ」

     【悠】「あい、ありがとう」

     【悠】「そういうさやねぇもふんわりした笑顔が可愛いよ」

    【紗香】「…………」

    【紗香】「え、えへへ。ありがと」

    【紗香】「それじゃわたし下行ってるね。二度寝しちゃダメだよー」

     【悠】「さてと、じゃあ俺も着替えるか」

ベッドから下りて、パジャマに手をかけて……。

     【悠】「…………」

     【悠】「…………あれ?」

なんかいつもと違う感覚。

妙に気にかかるっていうか。

こう、右手で触れたら左手でも触っておかないと、みたいな感じが。

     【悠】「んー……なんだろう……」

     【悠】「……あぁ」

今日はさやねぇからのスキンシップがないんだ。

まぁ言ってもいつもあるわけじゃないけど何かしらはしてきた。

ベッドにもぐりこんだり耳に息を吹きかけたり。

鼻を押さえてブタみたいにしたり唇を引っ張ってアヒルみたいにしたり。

なんだこれ、ラブラブじゃん。

そんなラブラブなさやねぇが普通に起こすって珍しい。

     【悠】「なんでだろう?」

     【悠】「ってそんな気にすることでもないか」

とりあえずさやねぇにツンツンされなくてもギンギンなマイサンに苦労しつつ、
学生服へと着替えた。

    【紗香】「あーちゃん今日も朝練でしょ? がんばってるねー」

     【悠】「晩ご飯食べ過ぎて体重増えた! とか言ってたからなぁ」

     【悠】「多分それで行ったんじゃない? 部活」

    【紗香】「そんなに痩せる必要ないのにね」

     【悠】「まぁ痩せすぎよりはちょい肉付きがいい方がいいよ」

     【悠】「具体的にはこう、こうむにっとして、ぽよんってして、むにゅんって感じで」

と空中で女の子の体系を描いてみる。

    【紗香】「いやいやー、でも女の子としてはやっぱり」

    【紗香】「ちゃんと引っ込んでるところは引っ込むように、こういう感じで」

とさやねぇも同じように女の子の体系を描く。

……なんだこれ、なんだこの時間。

でも少し安心する。

朝のさやねぇ、いつもと違ったから俺が何かしたのかと思った。

今はこうやって一緒に並んで歩いて笑ってくれて。

……いや別に朝の日課がなくて寂しいとかじゃないんだからね?

半分嘘だけどね!

     【悠】「ん?」

    【紗香】「どうしたのかな、あの人」

そんな俺たちの前。

公園の前でしゃがんでる女の子が。

     【悠】「さやねぇ」

    【紗香】「だね」

二人で顔を見合わせて、速足で歩いていく。

どうやらその女の子は制服から同じ学園の子のようだ。

     【悠】「どうかしましたか?」

    【紗香】「気分でも悪いの?」

   【???】「い、いえ、大丈夫です」

   【???】「ちょっと物を落としちゃって、それを探してるだけで……っ」

   【???】「すみません、声をかけて頂いてありがとうございます」

こっちを見ることもなく、地面に手をついたまま探し続けていた。

……お嬢さん、その格好だとパンツが見えそうなんですが。

なんて不純なことは全く思ってないよ? マジで。

     【悠】「…………」

話しかけられても振り返りもしないで。

パンツが見えそうな格好になりそうでもお構いなし。

声も焦って必死になってるのがわかる。

その落し物っていうのはそれくらい大事な物なんだろう。

俺は時間を確認して。

     【悠】「さやねぇ先に行ってていいよ」

     【悠】「なんて無粋なことは言わないぞ。もちろん手伝ってもらうから」

    【紗香】「当たり前だよ」

    【紗香】「ゆーちゃんだけにいいかっこはさせられないからねー」

     【悠】「その落し物ってどんなのですか?」

   【???】「本当に大丈夫ですから」

   【???】「大したものじゃないので、別に」

そこでようやく女の子はこちらを向いてくれた。

   【???】「…………」

向いてくれたんだけど……。

   【???】「………………」

     【悠】「あの、どうかしました……?」

俺の方を見るなり固まっている。

目を丸くしてぱちぱち瞬きして。

なにやら驚いてるみたいだった。

……え? なに? どうしたの?

    【紗香】「ねぇねぇ。この子どうしたのゆーちゃん」

     【悠】「いや、さっぱり俺にも」

     【悠】「俺? 俺が原因?」

     【悠】「もしかしてそんな驚くくらい鼻毛が出てたり?」

    【紗香】「さすがにそれだったらわたしが恥ずかしくて指摘するよ」

小声でさやねぇと会話する。

だとしたらいったい……。

   【???】「ゆう、くん……?」

     【悠】「ん? え、あぁ、はい」

あれ? 俺の名前を呼んだ?

ということはもしかして知り合い?

でも目の前の女の子に見覚えなんて……。

……見覚え、なんて。

     【悠】「…………」

いや……。

   【???】「ありがとう悠くん」

   【???】「また助けてもらったね」

言いながらそっと微笑む。

その笑顔に。

     【悠】「……あ」

気づく。

懐かしさと寂しさに。

その目元や雰囲気に。

何より嬉しそうに笑う笑顔に。

     【悠】「もしかしてまゆ、ちゃん?」

気づくとそう聞いていた。

そんな確証はどこにもないけど。

    【真由】「……ぁ」

    【真由】「くす、まゆちゃんはやめてよ」

    【真由】「でも覚えててくれたんだ」

     【悠】「あぁ……いやまぁ」

覚えてたというか思い出したというか。

え? え?? え???

っていうかマジか? マジで? マジな?

    【紗香】「えーっ。ホントにホントにまーちゃんなの?」

    【真由】「はい、相馬真由です」

    【真由】「えっと、紗香お姉ちゃん、だよね?」

    【紗香】「そーだよー。まーちゃんのお姉ちゃんの紗香お姉ちゃんだよー」

    【紗香】「うわー、まーちゃんだまーちゃんだー。ホントになつかしー」

    【紗香】「急に引っ越しちゃうんだもん、びっくりしちゃったよー」

    【真由】「ホントに」

    【真由】「ごめんね、その辺もいろいろあって」

    【真由】「あ。なんかもう、懐かしくて涙が……」

    【真由】「十年ぶり、なのかな。あの時から」

     【悠】「いや本当に、えっと……それくらいかな……」

やばい……。

いきなりすぎて動揺しすぎて喋れない!

吹き替えを頼むならエディ・○ーフィと豪語してた俺はどこに……!

     【悠】「…………」

だけど……。

    【真由】「…………」

……あぁ、またまたやばい……。

俺もちょっと泣きそう……。

……初恋と失恋の想いが浮かび上がってきて。

     【悠】「っと、再会を喜ぶのもいいけどまずは探し物だ」

ここは我慢。昔のこと。

だってほら? 十年だぞ十年。

確かにまゆちゃ……真由のことは好きだったけど。

だからって今どうしたって話になるし。

    【紗香】「そだそだ。それでまーちゃんに声かけたんだし」

     【悠】「それで何探してたんだ?」

    【真由】「あぁ……えっとその……」

    【真由】「指輪、なんだけど……おもちゃの……」

    【紗香】「指輪かー。同じ女の子としてそれは聞き逃せないね」

    【紗香】「安心してまーちゃん、ゆーちゃんが絶対に見つけるから」

     【悠】「あぁ、任せてくれ」

いや無茶ぶりはやめてほしいんだけど。

もちろん全力は当然尽くすけどさ。

    【真由】「う、うん……それじゃあ、お願いします……」

そして胸になんかいろいろなものを抱きながらも。

真由の指輪探しを手伝うことになった。

     【悠】「よし! 指輪発見!」

    【真由】「え? ホントに?」

    【紗香】「さすがゆーちゃん、やるー」

俺はドブから抜き出した手を高々と上げた。

     【悠】「いやいや。それはこっちのセリフだって」

    【真由】「紗香さんの予想、ばっちりでしたね」

     【悠】「三人でこれだけ探しても見つからないってことは」

    【紗香】「それなら道じゃなくて溝にでも落ちたんじゃないかって思ったの」

     【悠】「ならゆーちゃん、溝の中探してみてよーって」

     【悠】「あれを言われた時はさすがに『マジかよ!?』って思ったよ」

    【紗香】「わたしとしては『さやねぇに任せた!』」

    【紗香】「って言ってきたゆーちゃんの方に驚いたけどね」

     【悠】「なんというかお約束的に? ここはボケなきゃって感じで」

    【真由】「ご、ごめんなさい二人とも……私のせいで……」

    【真由】「悠くんも制服、そんなに汚しちゃって……」

    【紗香】「気にしなくていいよまーちゃん」

    【紗香】「ゆーちゃんはそんなの気にしないもんねー」

     【悠】「逆に『女の子の前でかっこつけれた』って思ってるくらいだし」

実際これは嘘でも強がりもでない。

女の子の前ではかっこつけたい。

意地があるんだ、男の子には!

特に初恋の女の子の前だったらそうだって。

     【悠】「これで合ってる?」

制服の汚れてないところで指輪を拭いて、真由の前に差し出す。

    【真由】「そう、これ」

    【真由】「また助けてもらっちゃったね」

    【真由】「また、助けてもらっちゃったね」

     【悠】「ま、まぁ、あんまり気にするなって」

……ん?

それより『また』ってどういうことだ?

確かに今は探し物を手伝ったけど……。

それ以外に何か……。

    【真由】「ありがとう悠くん、本当にありがとう」

なんて疑問に思ってるうちに俺の手から指輪は取って。

嬉しそうに両手で包んだ。

本当に大事なものだったんだろう。

その様子から簡単にわかる。

こんなに喜んでくれるなら俺もドブに手をつっこんだかいがあった。

えいえんにあいすることをぉ、ちかい、ます。

   【???】「えいえんにあ、あ、あいすることをち、ちかいます」

ってなんで俺は今そんな光景を思い出してるんだ。

えぇい、沈まれ雑念!

     【悠】「…………」

だけどなんとなく真由から目を外せなくて。

    【真由】「…………」

あっちも見つめ返す感じで。

え、えぇい……沈まれ、雑念……。

    【紗香】「…………」

    【紗香】「ってあぁっ、二人とも。そんないちゃいちゃしてる場合じゃないよー」

    【真由】「べ、別にいちゃいちゃなんて――」

     【悠】「やっべ、もうそんな時間か!」

    【紗香】「だから言ったでしょ、もー」

    【紗香】「今のは予鈴だから走ったらまだ全然間に合う!」

     【悠】「真由、悪いけど走るぞ?」

    【紗香】「思い出話はまたあとでね」

    【真由】「う、うん。わかった」

とりあえず遅刻しないよう三人で学園へと向かう。

久しぶりに会ったというのに。

どこまでも慌ただしい俺たちだった。