晴斗様たちの会話を思い出してみる。
【恵海】「…………」
漏れ聞こえてきた内容を推察する限り、どうやら、
目出し帽にコートを羽織った変質者が瀬里沢さんに襲いかかったらしい。
そして、私にはそんな格好をした人間に、1人だけ心当たりがあった。
と言うか、私だ。間違いなく。
【恵海】「……なんてことを」
確かに、変装したのはいま思えば間違いだった。
そもそも仲良くなりたいのは私なのに、
変装した後では篠塚恵海だ、と気づいてもらえるわけがない。
変装キットの内容にも、少し問題があるだろう。
まず言えるのは、あれでは着ぶくれてしまい、
どう見ても男性になってしまうと言うことだ。
それも、無職かつ独身で、20年前であれば日夜ひと様の家に電話を掛け続けて、
女性の下着の色を聞くタイプと思われたに違いない。
更に女子トイレの個室に飛び込んだ所からも察するに、
女性の排泄物を食べる類の変態なのは、固いだろう。
【恵海】「はぁ……」
仕方ない。今日も持ってきてはいるが、
こうなってしまったからにはあの格好は封印しておこう。
晴斗様の口から、奥様に連絡すると言う言葉も聞こえてきたが、
そちらには私から事情をご説明する必要がある。
情けない話だが、大事にならないように取りはからってもらいつつ、
私の方は引き続き瀬里沢さんとの接触を試みよう。
【恵海】「……よし」
まずはメールで奥様に連絡を差し上げなくては。
私は携帯を取り出し、文章の入力を始めた。