証拠は、いくつも揃っている。
そもそも、僕が恵海のことをわからないわけがない。
それだけ長く付き合ってきたし、良いところも悪いところもお互い知り尽くしている。
そう……今はその、悪いところが前に出てしまっているんだ。
つまり―――
【晴斗】「友達……」
【海岡】「え? いま何かおっしゃいましたか?」
【晴斗】「あ、ううん、なんでもないよ。独り言」
そう。恵海は、友達を作ろうとしているんだろう。
それも、相手は瀬里沢さんだ。
僕が恋をしている相手、と言う事で意識したのが良い機会になったのかもしれない。
他人に対しての興味が著しく低かった恵海だけど。
家族同然の僕が気にしている相手と言うのもあり、
恵海にとっては衝撃的で、強い印象を残したに違いない。
今まで、1人として友達を作ったことのない恵海。
思い返せば小学生の頃、無邪気な気持ちで
『おともだちを家につれて来たりしないの?』と聞いたが、
恵海はスッと目を逸らした。
中学生の頃、大型テーマパークの無料チケット5枚を
『お友達と行ってきなさい』と父さんから渡された恵海は、1人で5回行っていた。
そんなドブ沼のように爽やかな青春時代を送っていたあの恵海が、
自分から動こうとしている。
【晴斗】「うっ……ぐ……」
【海岡】「晴斗様?」
【晴斗】「あ……ごめんね。目にゴミが入って」
彼女のご主人様として。そして、一緒に育った家族として。
僕は、前向きな恵海に、激しい感動を覚えていた。
【海岡】「では、また放課後に」
【晴斗】「うん、よろしくね」
けど、恵海の様子を見る限り、どうやら上手くは行っていないらしい。
当然だ、仕事上の相手であればまだしも、
恵海にとっては未知に近いであろう同年代の相手だ。
【晴斗】「どうにかしてあげたいけど……」
僕は常々、恵海には対等の相手がいないことに不安を感じていた。
もちろん、僕は一緒に育ってきた家族同然の幼なじみだ。
けど、結局は主人とお手伝いさん……
経営者と社員のように、“雇用”と言う契約が大前提にある。
いくらお互いに姉や弟のように感じていたとしても、
立場がそれを許してはくれないのだ。
そして、メイド長という天野家を取り仕切るポストに就く恵海にとっては、
家で働く人達のほぼ全員が部下だ。
外部スタッフや警備は別部門だけど、
人事権を持ってるのは恵海だし、現場での給与決定権も父さんと同様に持っている。
恵海と同世代の使用人はいても、
上下関係があっては友達になんてなれっこないだろう。
けれど、この『天木学園』と言う箱の中であれば、恵海は1人の学生になれる。
それならほとんどが、対等の立場である学生だ。
【晴斗】「それなら、僕が……」
そう、学生の中でただ1人だけ、僕が恵海のことをわかってあげられる。
幼なじみで、家族で、ご主人様で、クラスメイト。
そんな僕が、恵海のことを助けてやらないでどうする?
【晴斗】「…………」
けど、僕がお節介を焼こうとしていることが恵海にばれたら、
絶対『友達なんていりません』って言い出すに違いない。
であれば、こっそりと手助けするのが良いはずだ。
何より、僕の恋のお相手と、専属のお手伝いさんである恵海が仲良くするだなんて、
とても素敵なことじゃないか?
【晴斗】「えへ……」
も、もしも、僕と瀬里沢さんが上手く行ったりしたら、い、一生の付き合い?
になっちゃったりするかもしれないし? みたいな?
【晴斗】「え……えへ、えへへ」
【仁川】「ん? 天野じゃん……って、キモ! こいつの笑顔キモ!」
【裾野辺】「俺、こう言う笑い方するヤツ見たことあるわ。サイコホラー系の映画で」
うん! 絶対、2人を友達にさせないとね!
【晴斗】「よぉーし……行くぞぉ!!」
【仁川】「どこにだよ!?」
【裾野辺】「精神病院じゃね?」
【仁川】「なっ……!? い、行くな天野! 黄色い方へは行くなぁー!!」