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さて、そんなわけで今日も1日勉学に励んだ結果。

    【晴斗】「オーゥ、今けぇったぞ~」

 【ガードマン】「はっ。お帰りなさいませ、晴斗さま」

こうして自宅の敷居をまたぐ。

    【晴斗】「オラ、ケツだせ!
僕ちゃんのガチガチになった手土産をくれてやんよ! ウェ~ップ」

 【ガードマン】「はっ、かしこまりました」

そう言ってズボンを脱ごうとする屈強なガードマンこと、山岡さん。

    【恵海】「おやめください」

    【山岡】「オフゥッ」

    【晴斗】「あイタッ……って、恵海か」

    【恵海】「まだ他の使用人もいる時間なのですから、そう言ったお遊びはお控えください」

    【晴斗】「今日こそは、山岡さんの処女を散らしたかったのになぁ」

    【山岡】「はっ、恐縮です」

    【恵海】「恐縮しないで結構です」

クラスでの無愛想な印象そのままに、
山岡さんと僕へ容赦ないツッコミを食らわせる恵海。

    【恵海】「山岡さんももう上がりの時間過ぎてますし、毎日晴斗様を待つ必要はないのですよ?」

    【山岡】「いえ、天野家あっての我々ですから。日頃から忠義を果たす義務がございます」

    【恵海】「それは確かにその通りかもしれませんが。本音は?」

    【山岡】「次代の雇用主たる晴斗さまにゴマをスっておいた方が、
将来の為になりますので。妻と息子もおりますし」

    【晴斗】「うわぁ、正直」

山岡さんは、この実直で素直すぎる所が短所であり、長所でもあるんだけど。

まぁ、基本的には短所だよね。超余計な情報だし。

    【山岡】「それでは、一通りゴマもスリ終えましたので、お先に失礼いたします」

    【恵海】「はい、お疲れ様でした」

    【晴斗】「また明日ー」

僕と恵海に一礼ずつして去って行く山岡さんを見送ってから、恵海に向き直る。

    【晴斗】「ただいま、恵海」

    【恵海】「お帰りなさいませ、晴斗様」

篠塚恵海。

僕の通う私立学園のクラスメイトであり、
そして何より身の回りのお世話をしてくれる、僕専属のお手伝いさん。

……って言っても、むしろ教育係って言った方がしっくり来るかもしれない。

    【晴斗】「今日も先に帰ってたんだねー。なんでいつも車で送迎してもらってる僕より早いの?」

    【恵海】「忍術です」

    【晴斗】「ははぁ、忍術」

説明がめんどくさい時は、大体ニンジャを絡めておけば大丈夫という意識がある辺り、
教育に向いているのか疑問ではあるけど。

    【恵海】「そもそも本日は、
藤崎先生……恭平様のお手伝いで帰るのが遅れたのではありませんか?」

    【晴斗】「あれ、知ってたんだ?」

    【恵海】「盗聴です」

    【晴斗】「ちょっ……忍術じゃないのっ!? って言うかどこ!? 盗聴器ドコにあるの!?」

仕掛けられた場所を探そうと、焦った僕は制服を脱ぎつつ丹念に調べる。

    【晴斗】「これ……は、違うし。これ……は、ボタンを止めるプラスチックだし。
え、ちょっと恵海、ドコにあるの!?」

    【恵海】「落ち着いてください、晴斗様。冗談です」

    【晴斗】「え……? って、冗談?」

    【恵海】「はい。真っ赤な冗談です」

    【晴斗】「なーんだ、ははは。僕は少し青くなったよ」

なんて、和やかに話をしていると。

  【メイド1】「あっ、メイド長に……ぼっちゃ……ま……?」

    【晴斗】「あ、もう上がり? お疲れさ」

  【メイド1】「い、いやああぁぁぁっっ!! 坊ちゃまが、坊ちゃまがあぁぁっ!!」

    【晴斗】「え、えっ!? な、なに!? 僕はいるよ!? ここにいるよっ!!?」

  【メイド1】「うわあぁぁぁん、イエロー象さん! イエロー象さんがあぁぁぁ!!!」

    【晴斗】「どういうことなの!? 太陽が燃えているよ!? ギラギラと燃えているよ!?」

    【恵海】「晴斗様。まずは落ち着いてから、ご自分のお姿をご確認くださいませ」

自分の姿……?

恵海に促されて、視線を落としてみると。

    【晴斗】「ガ……ガチガチになった手土産だああぁぁ!!?」

  【メイド1】「うわああぁぁぁん、炎の孕ませお坊ちゃまあぁぁぁ!!」

    【晴斗】「ああ、待って!! 今の僕、すっごい風評被害! 風評被害だからっ!」

と言っている間にも、彼女は猛烈な勢いで走り去ってしまった。

    【恵海】「晴斗様、使用人は晴斗様の性玩具ではございませんよ。妙な行動は慎んでください」

    【晴斗】「って、恵海が変な冗談言うから制服を脱いだんだと思うよ!?」

    【恵海】「忍法です。口車に乗せて、適当に全裸に剥くの術です」

    【晴斗】「リアルにダメージでかいからやめて!」

ご主人様をこんなに困らせるお手伝いさんってなんなんだろう。

    【恵海】「そんなことより晴斗様。早くその手に持ったペラペラのカバンをよこしてください。
私の仕事を取り上げる気ですか」

    【晴斗】「なんでそんな偉そうなのっ!?」

なんて言いつつも、カバンを渡す。

    【恵海】「あと、せめてパンツは穿かれた方が良いかと思います。
イエロー象さんがピンク象さんになってしまいますので」

    【晴斗】「そう言うのは早く言ってね!?」

足下に散らばった服をかき集めて、手早く着込む。

そうして、僕が着替える様子をじっと眺める恵海。

……なんか、生着替えを観察されるのって少し恥ずかしいな。

    【晴斗】「はい、着たよ」

    【恵海】「お疲れ様でした。ただ、晴斗様。そもそも自宅に帰られたのですから、
制服から着替えても良かったのではありませんか?」

    【晴斗】「先に言ってくれる!?」

なんだろう、この手の平でコロコロと転がされている感じ。

あと、よく考えたらいつもは恵海が着替えを手伝ってくれているのに、
なんで今に限って全部自分でやっちゃったんだろう。

    【晴斗】「うう……恵海は僕のことが嫌いなの?」

    【恵海】「とんでもございません。私にとって、大事な金づるでございます」

    【晴斗】「山岡さんもそうだけど、そう言うのは黙っておいた方がいいと思うよ?」

    【恵海】「冗談でございます。そもそも、晴斗様が産まれた時から
ほぼ毎日一緒に過ごしたのですから、好きも嫌いもございません」

    【晴斗】「なら良いんだけどさぁ……いや、良いのか悪いのか微妙ではあるけど」

そう、僕と恵海は幼なじみ……と言うよりは、
ほとんど家族のようにして過ごしてきた。

篠塚家は代々、僕たち天野家に仕えてきたお手伝いさんの家系で、恵海はそこの末娘。

そして僕は、天野家の現当主である天野修一の一人息子、天野晴斗だ。

歳が近いのもあり、僕と恵海は雇い主とお手伝いさんという間柄ではあるものの、
本当ののように過ごしてきた。

とは言え、文武に関して相当の教育を受けてきた恵海には、
スポーツであれ勉強であれ、僕なんかじゃ到底かなわないんだけど。

    【恵海】「どうされましたか、ボーッとして?」

    【晴斗】「あ、ううん。恵海は爺さんの教育のたまものだなぁ、って思ってただけ」

    【恵海】「そうですね。困ったときは忍法でごまかせ、と言うのはお祖父さまに教わりました」

    【晴斗】「それ、受け継いでただけなんだ!?」

あの爺さん、教育方針間違ってんじゃない!?

    【恵海】「しかし、私を育ててくれた大事なお祖父さまのことを思い出させるだなんて、
晴斗様は鬼畜ですね。この鬼。鬼畜王」

    【晴斗】「そこまで言う!? って言うか、もう2年前の話だよね!?」

しかも、85歳までしっかり生き抜いた人だ。

生涯現役を貫き通した豪傑だったので、亡くなった時は何かの冗談かと思ったくらいではあったけど。

    【恵海】「お祖父さまと言えば……昨晩ですが、母から連絡がありました」

    【晴斗】「あ、ほんと? おばさん、元気にしてた?」

    【恵海】「電話口ではありましたが、相変わらずでしたね」

    【晴斗】「おじさんとは話さなかったの?」

    【恵海】「話しましたよ。久しぶり、とだけ」

    【晴斗】「みじかっ」

治爺さんは、あまりテンションの上下がない恵海と違って豪快で涙もろい、
感情の起伏が激しい人だった。

そして、そんな治爺さんの娘であり恵海の母でもある侑未おばさんも、
気質を受け継いでいるのかとにかく元気で人なつっこい。

逆に、
結婚するまでウチのガードマンの取りまとめをやっていた父親の悠司おじさんは、
うちの父さんよりも年上なのだけれど、寡黙過ぎてコミュ障気味。

実は恵海よりもずっと強く、
剣術の達人な上に医師免許まで取得したスゴイ人ではあるんだけど……
恵海はそちらの遺伝を強く受け継いだのだろう。

そんな夫婦は元々ウチで働いていたんだけど、
結婚後は僕の叔母である弥生叔母さんの専属お手伝いさん兼護衛となった。

叔母さんは主に海外で活動しているため、
僕は数年に1回、恵海でさえも年に数回と言うペースでしか両親と会っていない。

少し可哀想に思えるけど、恵海いわく
『毎日会ったら1ヶ月で10キロ痩せると思います。特に母は』と言うくらい
ハイカロリーな両親だから、今のままで良いそうだ。

うちと恵海の家庭の事情があったため、実際に恵海を育てたのは治爺さんだったしね。寂しい気がするけど、本人も遠くの親戚くらいの感覚なのかもしれない。

    【晴斗】「まだ、しばらく海外なの?」

    【恵海】「そうみたいですね。
新しい事業が軌道に乗ってきたらしく、むしろこれからが忙しいみたいです」

    【晴斗】「へぇー。弥生叔母さんも大変だ」

いつもぼんやりしていて、不思議な電波を受信しているような会話しかしないのに。

経営手腕は、なぜか天野家でも屈指なんだよなぁ。

    【恵海】「ですから、仕事と生活のサポートで毎日忙しくしていると言っていました」

    【晴斗】「あー、うん。弥生叔母さん、介護が必要なレベルでなんにもできない人だからねぇ」

    【恵海】「晴斗様もベクトルは違いますが、相当な物だと思いますよ」

    【晴斗】「あはは、なんせお坊ちゃんだから」

    【恵海】「そうですね。そして私も、
そんな晴斗様のお世話をするのがお仕事ですので、お気になさらないでください。
飲酒が可能な歳で学校へ行くのも苦ではありません」

    【晴斗】「あ、あはは……その件に関しては、父さんと母さんに文句を言ってくれる?」

    【恵海】「文句などとんでもございません。むしろ、学校でも晴斗様のお世話ができて光栄です」

と言っている恵海の表情は、あんまりそう感じているようには見えない。

    【晴斗】「……っと、いつまでもこんな所で喋ってないで、お部屋に行こっか」

風向きが悪くなってきたため、少し強引に会話を打ち切った。

そして、夕食の時間。

    【修一】「はっはっは、なんだ。夕方にそんなコントを繰り広げていたのか」

    【志乃】「ふふふ、相変わらず山岡さんは素直クズねぇ」

    【晴斗】「むしろ恵海が入ってきたせいで、話が変な方向に転がっていった気がするけど」

父さんと母さん、そして僕の3人家族による食事の時間だ。

まぁ、ただ

    【恵海】「あれはそもそも晴斗様が、変な方向へ転がるように仕向けていたからです」

恵海が給仕さんとして、すぐ側に控えてはいるけど。

父さんは天野グループの長として毎日忙しくしている。

でも、この時間には絶対に自宅へ帰り、食事を摂るようにしているらしい。

『うちでご飯を食べてる場合なの?』と言う大変な状況になっている時にも帰るため、
側近の人々には多大なる迷惑を与えることがあるそうだ。

前にその事を聞いたときは、『それを含めた対価を支払っているから問題ない!』と、
胸を張っていたけど……。

恵海いわく『それを込みでも、旦那様の元で働きたい人は大勢いらっしゃいます』
とのことなので、恐らく本当のことなんだろう。

で、それだけこの時間を大事にしている理由だけど。

『夜など、仕事せずに家にいたいに決まってるだろう?
家族とメシって言えば逃げやすいしな』

……とのことらしい。

周りからは家族思いに見られているらしいけど、
本当の所は単に働きたくないだけという、大人の鑑みたいな人。
それが天野修一こと、僕の父親だ。

    【修一】「お、このスープうまいな! なんだこれ、肉か?」

    【恵海】「牛のテールスープです」

    【修一】「肉かぁー」

    【晴斗】「父さんの肉の範囲、超広いよね」

    【志乃】「いい加減な人だから、仕方ないわよ」

さして気にした風もなく、母さんもテールスープを口に運ぶ。

    【志乃】「あら、でもほんと。インスタントのよりもおいしいわね」

    【晴斗】「え、母さんインスタントのスープなんて飲むの?」

    【志乃】「もちろん。あの、似ているようで似ていない、
別物だけどおいしいって言うジャンクな味はたまらないものがあるわ」

    【修一】「はっはっは、正にジャンキーだな母さんは!」

    【志乃】「ふふふ、そうね。毎日がバッドトリップでコーヒーショップだわ」

    【晴斗】「インスタント食品の話だよね?」

なぜアブナイオクスリの話になっているんだろう。

    【修一】「ところで恵海。最近の学校はどうだ?」

    【恵海】「そうですね……」

    【晴斗】「息子を前にして、お手伝いさんにまず聞いちゃうの?」

    【修一】「お前の話聞いても、あんまり笑えないしなぁ」

    【志乃】「あら、そうかしら? 時折笑えるわよ」

    【晴斗】「一応、僕たち勉強に行っているんだけど」

笑えることを前提にされると、さすがに難しい。

    【修一】「で、どうなんだ?」

    【恵海】「ああ、そう言えば今朝ですが。
晴斗様と恭平様は肉体関係を結んでいる、と言う噂が流れておりました」

    【晴斗】「ブフォッ」

    【修一】「おおっ、恭平くんと!」

    【志乃】「それって晴×恭かしら? もしくはスタンダードに恭×晴?」

    【恵海】「恭×晴が多かったようです。晴斗様の『僕のライン引きから粉噴いちゃうのぉ』
が決めゼリフという話になっておりました」

    【晴斗】「ちょ……ちょっ、ちょっ! 何それ、いつそんな話が出てたのっ!?」

    【恵海】「今朝、おふたりが廊下で話されている間のことですね」

あの短時間で、そんなことが……!?

    【恵海】「さすがに、いわれのない肉体関係をねつ造されても困るだろうと思い、
晴斗様へ声を掛けようか迷っていたのですが」

    【晴斗】「それで、ずっと僕のことを見てたの!?」

    【恵海】「はい、その通りです」

キョウ兄ちゃんに何か言いたいことでもあるのかと思ってたけど、
まさか僕も含めた2人にだったなんて!

    【修一】「くくく……しかし晴斗と恭平くんがデキているだなんて、最高じゃないか!
はっはっは!」

    【志乃】「ふふふ、そうね。すっごいコッテリした交尾しそうだわ。
晴斗くんの手コキが炸裂するわね」

    【晴斗】「やめて母さん。具体的過ぎて、僕気持ち悪い」

なんで僕が、キョウ兄ちゃんに炸裂させないといけないのだろうか。

    【志乃】「そう言えば晴斗くん、童貞はどうしたの? まだ持ってるのかしら?」

    【晴斗】「うん、かなり力強く握りしめてるよ」

    【修一】「なんだなんだ、そんなことじゃイカンぞ晴斗。
もっと直線的ドリブルで人生を突き進まないと」

    【晴斗】「ハンダごてでも曲がらないくらい直線の父さんに言われると、耳が痛いなぁ」

    【修一】「もっと母さんを見習ったらどうだ?」

    【志乃】「そうねぇ……お母さんが晴斗くんくらいの時は、地元では有名なサセ子だったわよ?」

    【晴斗】「よく妊娠騒ぎとか起きなかったね、母さん」

    【志乃】「ええ、セフレに医者の息子がいたの。
後ピルをちょろまかさせて、常に携帯していたわ」

あれも確実じゃないとは聞くけど。ラッキーだったんだろうな、母さんは。

    【修一】「いいか晴斗。お前も将来は天野家を……
そして世界に名を馳せる、天野グループの総裁として頂点に立つんだ。
童貞くらい、パージしてスペースにフライせねばいかんぞ」

何が言いたいのかよくわからないけど、ようは早くヤってしまえということだろう。

    【晴斗】「けどそもそも、誰でも良いってわけじゃないじゃないか」

    【志乃】「当然よ。晴斗くんのザーメンは、つまり天野家長男の子種だもの。
欲しがる卑しいメスブタは、世界中にごまんと居るわ」

    【修一】「とは言え、相手を私たちで見繕うのもおかしな話だ。今はそんな時代でもないからな」

    【志乃】「だから、晴斗くんが恋をした人……その相手に向けて、
精一杯白い欲望を吐き出せばいいの。ね?」

    【晴斗】「それは何度も聞いたけど……」

    【修一】「晴斗が選んだ女性であれば、私たちは何も言わない。
だが、この人だと決めたら一直線に進むんだぞ。いいな?」

    【晴斗】「うん……わかってるよ」

『晴斗は将来、人々の上に立つのが約束されている。
そんな男が、女の味を知らないなんて笑い話にもならない。
だから早く女性経験を持て』

それが、小さな頃からこの両親に言われてきたことだ。

けれど同時に『相手はしっかり見極めろ。いつヤッたかわからない相手に
子供を連れてこられたら面倒だぞ?』とも言われている。

父さんが若い頃、実際に経験したことだそうで、
その話をする時は非常に疲れた顔を浮かべる。

幸い、当時は重度のアナルマニアだった父さんにとって、
中出し経験は母さんだけだったため、難を逃れたらしい。

だから父さんも母さんも、口を揃えて言うことは同じだ。

『心から愛した女性に、その身を捧げなさい』と。

    【修一】「だがな、晴斗。もしその機会が訪れた時に、
相手が母さんのような手練れだった場合はヘタクソだと振られてしまうかもしれない」

    【志乃】「大は小を兼ねるの。だから今は、がんばって上手くならないとダメよ?
もちろん、今夜だって」

    【修一】「……む。なんだ?」

  【メイド2】「失礼いたします。恭平様がお見えになられました」

    【修一】「おお、来たか! いいぞ、ここへ通してくれ」

    【晴斗】「ああ、そう言えば今日はうちに来るって言ってたっけ」

今朝の会話を思い出すと同時に、さっきの恭×晴の話を思い出して少しブルーになる。

    【晴斗】「ごちそうさま。邪魔になるだろうし、僕らは部屋に行ってるね」

    【修一】「そうだな……仕事の話もするから、そうしてくれ」

    【晴斗】「それじゃ、恵海。戻るついでにキョウ兄ちゃんへ挨拶しとこっか」

    【恵海】「はい、かしこまりました」

話しながら食事を済ませていた僕は、恵海を伴って席を立つ。

    【晴斗】「いらっしゃい、キョウ兄ちゃん」

    【恭平】「おー、お邪魔してるぜ」

    【恵海】「いらっしゃいませ、恭平様」

    【恭平】「今日も2人一緒か。仲良いなぁ、オイ?」

    【晴斗】「一応、僕専属だからね」

    【恭平】「しかし学園のアイドル的存在が、お前みたいなお坊ちゃんと
一緒に住んでいるなんて知られたら、どう思われるだろうな?」

    【晴斗】「明日には僕の席が無くなっていると思うよ」

    【恭平】「ははっ、だなぁ」

それくらい恵海の人気は根強く、すさまじい物がある。

    【恭平】「あ、そうそう。昨日だけど、優さんに会ったぜ」

    【恵海】「兄に? そうですか」

篠塚優。父さんの弟である昭藏叔父さんに仕える、恵海の屈強なお兄さんだ。

そして、ガードマンとして雫ちゃんの面倒も見ているため、
何かと接点のあるキョウ兄ちゃんとは仲が良い。

    【恭平】「って、淡泊な反応だな?」

    【恵海】「ええ、先週始めに会ったばかりなので」

    【恭平】「あれ、そうだったのか」

相変わらず、キョウ兄ちゃんが相手でも、
僕たち家族に比べて言葉数が少なくなるなぁ、恵海は。

クラスの人達に対しては、さらに喋らなくなるから、ずいぶんマシなんだけどね。

同僚の人達に対しては上司部下っていう縦の関係があるから、
ちゃんと会話できるらしいけど……
まぁ、なんであれ他人にとっては気むずかしいよね。

    【晴斗】「それにしても、一時的とは言え、
教職を始めてからのキョウ兄ちゃんってなんか生き生きしてるよね?」

    【恭平】「おっ、そうか? まー、長年の夢だったしなぁ」

    【晴斗】「僕としても、キョウ兄ちゃんが教員免許を持っててくれて助かったよ」

    【恭平】「そりゃーな……まさか俺まで、
恵海ちゃんみたいに年齢詐称して入学するわけにもいかねーし」

    【恵海】「それは、私など成人済の年増ババァと仰りたいのでしょうか?」

    【恭平】「そ、そう言うつもりはなくてだな……おい晴斗、お前のメイドだろ?
どうにかしろよ」

    【晴斗】「僕に恵海は、扱い切れないよ?」

    【恭平】「諦めるの早すぎねぇか、オイ……?」

キョウ兄ちゃんは、もともと一般家庭で育った人だった。

けど、色々なことがあって、
昭藏叔父さんの一人娘である天野雫ちゃんと恋人関係になってしまったらしい。

雫ちゃんは、厳格な昭藏叔父さんと違って、むしろ弥生叔母さんぽいと言うか。

僕にとっては不思議な従姉妹のお姉ちゃんだったのだけど、
許嫁が居たにも関わらず、キョウ兄ちゃんを連れてきたのだ。

とうぜん大騒ぎになったけど、結局は叔父さんも交際を認めてくれたらしい。

そして順調に仲を育んでいった2人は、婚約を望んだのだけど。
それには、いくつかの条件が出されることになった。

その内のひとつが、
大学を卒業したら天野グループ傘下の企業で一般社員として働いてもらうこと。

雫ちゃんと結婚となった場合は、
婿入りで天野家の一員となるから、叔父さんにしてみれば当然の条件らしい。

ちなみに僕も、将来は身分を隠して修行をするそうだけど。
ちょっとだけ楽しみだったりする。

……ともかく、そんな修行の真っ最中に、叔父さんの兄である僕の父さんが
『4年だけ、恭平くんを貸してくれ』と、いつもの調子で言ったらしい。

当時、
既に1プロジェクトの中核を担う人材となっていたため叔父さんも反対したけど、
一族の長である父さんには頭が上がらないみたいで、渋々貸し出すこととなった。

そしてすぐに、うちが出資元であり、かつ母さんが理事長をやっている天木学園で、
教員として働いてもらうこととなったわけだけど。

それもこれも……。

    【晴斗】「僕の裏口入学が原因で、キョウ兄ちゃんを巻き込むことになっちゃったんだよね」

    【恭平】「ブッ! と……突然、なにを言ってるんだお前は!?」

    【晴斗】「だってそうでしょ?
天木学園に入学するのは、僕が小さな頃から決まってたことじゃないか」

    【恭平】「ま、まぁ、そりゃ適当な学校に通わせて、誘拐沙汰にでもなったら困るからな。
天野家の運営する学校に通わせた方が安心なのは確かだ」

    【晴斗】「それで裏口入学した挙げ句、
キョウ兄ちゃんや恵海みたいな僕に近しい人を監視役として学校に置くだなんて。
巻き込んでいるって表現以外、ないと思うよ?」

恵海は、僕に最も近しいボディガードとして。
キョウ兄ちゃんは、学園生活のサポートとして送り込まれている。

教員生活になじむため、キョウ兄ちゃんは僕より1年早く赴任したし、
恵海に到っては年齢までごまかして僕と同じ学年で入学した。

まぁ、ごまかさなくても入学はできるんだけど……。それが元で目立ってしまったら、
身辺警護なんて務まらないからってことが主な理由らしい。

……今は、別の意味で2人揃って目立ってはいるけどね。

とは言え、天野家との深い繋がりがばれたら、
2人とも腫れ物扱いされるため、他の教師や生徒には身分を隠している。

知っているのは、母さんを含めた理事会の人達と、校長に教頭……そこまでみたいだ。

この事を考えると、2人を僕の卒業まで付き合わせることになってしまったのもあり、
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

    【恭平】「むしろ俺は感謝してるんだぜ? お前の家庭教師をしていた時にはもう、
卒業後にコネ入社するのは決まってたからな」

大学に行っていた時は、教職の単位を取得しつつ僕の勉強を見てくれていた。

父さん達は、その頃から教師役として目を付けていたらしい。

まぁ、実際あの頃は僕の成績もぐんぐん伸びていったし。
キョウ兄ちゃんは苦労の人だからか、教え方が上手いんだよね。

    【恭平】「それにな、お前は裏口なんかじゃねぇよ。こう言うの、
あんまり言っちゃダメなんだが……入試の成績は2位だったんだぞ、2位」

    【晴斗】「に、2位? ホント?」

    【恭平】「ホントも何も、自分の定期考査の順位を見りゃわかるだろ」

そう、僕の成績は常に学年2位。これは入学した時から変わらない順位だ。

入試までその順位だったとは思わなかったけど……。

    【晴斗】「となると、1位はやっぱり」

    【恭平】「ああ。入学式で新入生代表だった、ソッチの子だな」

と、キョウ兄ちゃんは恵海のことを見る。

    【恵海】「当然です。晴斗様に負けるわけにはいきませんし、
そもそも学校の勉強などとっくに修めております」

治爺さんの施した教育と言うのは相当な物で、
まだ小さな頃に一流大学レベルの勉強を教わっていたらしい。

さすがに恵海が相手じゃ、僕が敵うわけないか。

    【恭平】「ま、だからお前は本来、ブッチギリのトップ合格なんだ。気に病む必要はねぇさ」

    【晴斗】「うん……ありがと、キョウ兄ちゃん」

こう言う風に、しっかりと褒めるところは褒めてくれるのが
学校でも人気がある理由なんだろうなぁ、なんてちょっと思ってしまう。

    【晴斗】「ところで、いいの? 父さん達が待ってるけど」

    【恭平】「うお! そうだ、忘れてた!」

急いで食堂の方へ向かうキョウ兄ちゃん。

だけど、すぐに立ち止まって。

    【恭平】「そうそう、ひとつ聞き忘れてた。お前らって、瀬里沢とは話すか?」

    【晴斗】「え、瀬里沢さん?」

本庄さんの席の後ろで、僕の席から見ると斜め前に座る女の子だ。

今日は学校を休んでいたみたいだけど……。

    【恵海】「私は、晴斗様以外の人間とは必要最低限の会話しかいたしません」

    【恭平】「ま、まぁ、そうだよな……」

お陰で1人も友達が居ない……けど、本人は全然気にしていないみたいだ。

少しは気にした方が良いと思うんだけどなぁ。

    【恭平】「晴斗はどうだ?」

    【晴斗】「席が近いから、軽くお話くらいはするけど。特別仲が良いってわけじゃないよ?」

    【恭平】「そうか……いや、ならいいんだ。悪いな」

    【晴斗】「う、うん……?」

『それじゃ』と言って、今度こそ食堂へと向かうキョウ兄ちゃん。

    【晴斗】「なんだったんだろ?」

    【恵海】「さぁ、なんでしょうか」

ま、いいや。部屋に戻るとしよう。

    【晴斗】「あー、今日も疲れたなぁ」

ベッドに腰掛けながら、溜息交じりにつぶやく。

    【晴斗】「シロちゃーん、僕と一緒に遊ぼっか?」

部屋で飼っているミドリガメこと、
シロちゃんにちょっかいだすために水槽へ近づくと。

    【恵海】「もう先ほど充分遊ばせて、エサやりもしておきました。
さっさと椅子にお座りください」

    【晴斗】「うっ……」

食事の前に用意したのだろう。
机の上を見ると、僕の勉強道具がビチッと用意されていた。

    【恵海】「先ほどノートをチェックしましたが。
本日の授業で3カ所、理解していない部分がありますよね」

    【晴斗】「あ、あはは……そうだったかなぁ?」

    【恵海】「まずはそこを理解するまで反復します。次に、明日の予習をいたしましょう」

    【晴斗】「……やるの?」

    【恵海】「イヤであれば、いつもの朗読会が待っておりますが。やめますか?」

    【晴斗】「うう……や、やります」

    【恵海】「よろしい」

重い腰を上げ、渋々机に向かう。

うう、キョウ兄ちゃんと違って恵海はスパルタだからなぁ。

    【恵海】「それでは始めましょうか」

    【晴斗】「は、はいぃ……」

そうして今日も、地獄の予習復習が始まった。

    【恵海】「違う、そうじゃありません!! 『2年1組、あまのはると。しあわせな、なみだ』」

    【晴斗】「や、やめてぇ! がんばるから! がんばるから、それだけはやめてえぇぇ!!」

    【恵海】『なみだはまるで、めからでたあせ。 しょっぱいな。しょっぱいね』

    【晴斗】「ひぎゃあああぁぁぁ!!
生理食塩水だからね! 生理食塩水だからしょっぱいよねええぇぇぇ!!」

    【恵海】『きみのなみだもしょっぱいのかな。しょっぱいかな。しょっぱいよね』

    【晴斗】「韻を踏めてなああぁぁぁいいい!! ぎぃええぇぇぇぇええ!!!!」

……そんな、地獄の精神攻撃に耐えながら、勉強を続けた。

    【恵海】「本日は以上になります。お疲れ様でした」

    【晴斗】「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……う、ううぅ。ぐすっ、ひっく……」

    【恵海】「申し訳ありません、晴斗様。しかし私も、つらいのです。
本当はご主人様にこんなことはしたくなどないと言うのに」

    【晴斗】「ほ、ほんとう……?」

    【恵海】「ええ。ですが、人並み以上の学力を維持し続けるのも天野家次期当主たる者の勤め。
ここはどうにかこらえてくださいませ」

    【晴斗】「じゃあ、なんでそんなに良い笑顔なの?」

    【恵海】「……こほん。私も、つらいのです」

嘘だ、僕を責め立てるとき、すっごい楽しそうだったし。

うう……やっぱりスパルタだよぉ、恵海は。

    【恵海】「しかし晴斗様も、なんだかんだで楽しんでいらっしゃるように思えますが」

    【晴斗】「ええ? 僕が?」

    【恵海】「はい。特に悶えている時などは、
時折至福の表情を浮かべております。変態なのですか?」

    【晴斗】「変態じゃないよっ! ……って言うか、え? ホントにそんな顔してる!?」

    【恵海】「ええ。まるで薄汚いオスブタのようです」

    【晴斗】「恵海の方が変態だよね!?」

主に、言葉のチョイス的な意味で。

    【晴斗】「うう……度重なる恵海の鬼畜な責めで、
変な性癖に目覚めちゃったんじゃないかなぁ、僕」

    【恵海】「そうだとしたら、
晴斗様は過去に書かれた詩の朗読をしたり歌の録音データを流すことが、
心待ちになってしまっているのですよね?」

    【晴斗】「そ、そう……なるのかな?」

    【恵海】「楽しまれてしまうようでは、他の罰を考えなくてはなりません。
一応避けてはおりましたが、やはり肉体言語系しかないのでしょうか」

    【晴斗】「い、痛いのはやめてよ! て言うか、今も充分痛いんだから!
 そのままで良いと思うよ!?」

    【恵海】「まぁ、わざと間違ったりはしていないようですし。信じることにいたしましょう」

    【晴斗】「ほっ……」

恵海の肉体への攻撃なんて、危険すぎるもんね……。

    【恵海】「そうそう。明日の帰宅時までに、こちらの問題集を2ページ進めておいてください」

    【晴斗】「えっ?」

    【恵海】「出来ていなかった場合、肉体言語系でファンクションをイントでリターンしつつ、
トライキャッチいたします」

    【晴斗】「なんかわかんないけど、すごい痛そう!!」

その、脅しなのかなんなのかもよくわからない言葉に震えていると、
恵海が僕の前まで来る。

    【恵海】「さて、それでは……次で最後ですね」

    【晴斗】「あ、うん。えっと……はい、よろしく」

そして僕は、おもむろに恵海の前へ男の象徴を晒す。