【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【おキヨ】
【真守】
【通行人A】
【通行人B】
【通行人A】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【おキヨ】
【真守】
【通行人A】
【通行人B】
【通行人C】
【真守】
【真守】
【真守】
【真守】
【真守】
【通行人C】
【真守】
【真守】
【真守】
【真守】
打ち合わせを終えた僕たちは、少しショッピングをした後で駅前へと向かった。
「今日はごくろうじゃったな」
「いえ、おキヨさんこそ、遠いところわざわざありがとうございます」
おキヨさんの手には、小さな買い物袋がぶら下がっている。
そして、同じものが僕の手にも。
「なに、編集部からここまで、そう距離は離れておらん。
それに、個人的に買いたい物もあったしの」
そう言って、おキヨさんは手にした袋を指さして笑う。
駅から少し離れた通りにあるパン屋のドーナツが、
おキヨさんはお気に入りらしいのだ。
打ち合わせの後は、大体このドーナツを買って帰るそうだ。
「ひょっとしておキヨさんが来てくれた本当の目的って、
このドーナツを買って帰ることなんじゃ……」
「まぁ、否定はせぬ。会社には内緒じゃぞ?」
パチッとウィンクをして唇に人差し指を当てるおキヨさんの仕草は、
とてもチャーミングだ。
出会って数年経つ僕ですら、
こういうところを見てしまうといまだに思わずドキリとする。
「じゃがまぁ、お主とは実際に会って話をしたかったのじゃ。
メールや電話では、伝えきれぬものがあるからのぅ」
「伝えきれないもの、ですか」
「そうじゃ」
おキヨさんはスッと僕に近づくと……。
「妾のほとは、興奮したじゃろ?」
背伸びをしてひそひそ声でそういった。
「あ、ああいう事……他の漫画家さんにもしてるんですか?」
僕は喫茶店でのことを思い出し、顔を赤くする。
「お? なんじゃ、嫉妬か?
妾が自分以外の男に股を開いておるのかと、心配しておるのか?」
「い、いやそんな事はっ……」
「童貞のくせに、独占欲が強いのぅ。まぁ、妾は世界一可愛い美少女じゃからのぅ。
自分だけのものにしたい気持ちは、よくわかる」
「いやですから、そんなこと誰も言ってないですよっ!」
「照れるな照れるな♪ とりあえず安心せよ。妾が股を開くのは、
気に入った男の前でだけじゃ。妾はビッチじゃが、そのあたりの分別位はあるぞ」
「それともあれか? 妾がどこの誰とも知らない男に所構わず股を開いて
ケツを振る、真正のくされビッチの方が興奮するかえ? 難儀な性癖じゃのう」
「そ、そんな性癖持ってないですよっ!」
おキヨさんのからかい攻撃に圧され、僕は思わずそう叫んでいた。
周りの視線が、一気に僕に注がれる。
「うわ、なにあの人……」
「性癖とか言ってなかった? こんな場所でよくそんな言葉、大声で言えるよね」
「しかも相手は子供だよ? っていうか犯罪者? 警察呼んだほうがよくない?」
「クククッ……やはり、お主という奴は、実にからかい甲斐がある男じゃのう」
「ドーナツ有難うございました。そろそろ僕は帰ります」
「おや、怒ってしまったかの?」
「別に怒ってませんよ……早くこの場を離れるべきかと思っただけです。
それじゃ、また明後日に」
「うむ♪ それではのう、真守」
歩き出したおキヨさんは、途中で振り返るとちっちゃい手を伸ばし、
振ってくる。
僕が振りかえすと、彼女は踵を返し、改札へと歩いていく。
「まったく、いつもいつも僕をからかって……」
そして歩いていくおキヨさんの後姿を見ていると、
どうしてもふわふわと揺れる浴衣が気になる。
ただでさえ裾が短いのに、下着を穿いてないなんて。
まったく……あれじゃ、少しかがんだら丸見えじゃないか。
もう少し恥じらいを持って欲しいところだ。
僕はそう思って身体をくの字に曲げ、おキヨさんの浴衣の中を覗こうとした。
するとタイミングを見計らったように、おキヨさんが裾を抑え、振り返った。
そして裾を手で抑え、内またでもじもじしながら、頬を赤く染めて僕を見つめる。
「やだ、お兄ちゃんの……エッチ」
「ぐはっ!」
おキヨさんらしからぬ仕草と声音に、僕の心が激しく揺さぶられた。
「なんてのぅ。見たいならそう言えばよかろうに。いつでも見せてやるぞ?」
「じゃからつまらん犯罪だけはおかすでないぞ?」
おキヨさんはすぐにいつもの笑いを浮かべて、そう言った。
そして今度こそ改札へと消えていった。
「おキヨさん……」
「あの人、あんな小さい子のパンツ覗こうとしてた……」
「やだ、みっともない……いかにも童貞臭い顔してるもの。
今のうちに逮捕してもらった方がいいんじゃない?」
「通報した」
おキヨさんの茶目っ気にどぎまぎしている間に、
『僕包囲網』は着実に狭められていっていた。
「さて帰るか。帰りたくても帰れなくなる前に。
今の僕には、帰る場所があるんだから」
僕はそう言って、脱兎のごとくその場から逃げ出した。
(あぁそうさ。僕は確かに童貞だよ。
エロ漫画家が童貞なんて、確かにみっともないさ)
(おキヨさんは童貞の妄想力を原稿に生かせばいいって言ってたけど……)
(もしかしたら、僕の描く漫画には、
全然リアリティーがないんじゃないだろうか……)
ふと、そう思わずにはいられなくなった。
だからおキヨさんは、今回恥ずかしい思いまでして、
僕に女の子というものを見せてくれたのではないだろうか。
お前の描くマ●コはなっておらんから、参考にしろ……
ということなのかも知れない。
「くそぅっ、僕のエロ漫画は……だめなのか?
僕が童貞でっ……セックスを知らないばっかりにっ!」
もちろん、最後は声に出ていた。
「おまわりさんこっちですっ!」
「うぉぉぉおおおっ!?」
僕はドーナツの袋を持ったまま、全速力でその場を離脱した。
「はぁ、はぁ……ここまでくれば、もう安心だよね」
さっきまでの悩みも忘れて、
僕は『良い運動になった』とハンカチで額をぬぐった。
「走ったらお腹すいたな。あのオムライス美味しかったし、また食べに行こうかな」
「あ、いや……せっかくだし、愛菜さんが働いてるファミレスに行ってみようかな」
昨日愛菜さんに仕事先を教えてもらう事は出来なかったけど、
打ち合わせ場所の候補をネットで検索していて、分かった事がある。
この近くに、ファミレスはひとつしかないらしいのだ。
お昼休みにこの公園まで来れる距離にあるみたいだし、
愛菜さんが働いている場所はもうそこしかない。
恥かしがり屋さんみたいだから僕に場所を教えたくなかったんだろうけど、
僕はどうしても愛菜さんのウェイトレス姿を見てみたかった。
だって、あんなに可愛い愛菜さんだもの。
制服を着た愛菜さんは、もっと可愛いに決まってる。
空腹よりも制服見たさに背中を押され、僕はファミレスへと向かった。
向かった……んだけど。
でも、結局……その日は愛菜さんのウェイレス姿を見ることはできなかった。