【真守】
【真守】
【愛菜】
【愛菜】
【真守】
【愛菜】
【真守】
【愛菜】
【真守】
【愛菜】
【真守】
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【おキヨ】
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【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
【おキヨ】
【真守】
まもなく正午というころ。
僕は歳田さんに留守をお任せし、打ち合わせのために街に出た。
まだ慣れない道を新鮮な気持ちで歩く。
打ち合わせまでは、まだ多少時間がある。
色々と寄り道をしていると、割と大きめの児童公園があった。
昨日は地図とにらめっこしながら歩いていたので記憶があやふやだが、
昨日もここを通った気がしないでもない。
歳田さんが言っていた公園というのは、ここのことかもしれない。
ちょうど喉が渇いていたし、
近くの自動販売機でジュースを買って、公園に入った。
木陰に入ると、ひんやりとして気持ちがいい。
僕は渇いた喉をジュースで潤し、一息ついた。
ハンカチで額の汗をぬぐっていると、
少し遠くのベンチに誰かが座っているのが目に入った。
「……あれ?」
本来ならそれ以上気に留めないが、今回は違った。
その服に、見覚えがあったからだ。
僕は空き缶をくずかごに入れ、ベンチへと近づいていく。
「ああ、やっぱり。こんにちは、愛菜さん」
「え?」
愛菜さんは顔を上げるとびっくりした表情で僕を見た。
そして慌てた様子で立ち上がる。
「か、管理人さんっ!?」
「奇遇ですね、愛菜さん。こんなところで会うなんて」
「あ、えっと……管理人さんは、ここで何を?」
「僕はこれから仕事の打ち合わせがあるんです。
駅で待ち合わせをしているんですが、
途中ここに寄ったら、愛菜さんの姿が見えましたので」
「そ、そうだったんですか……」
「……あれ? ところで愛菜さん、今日はバイトって言ってませんでしたっけ?
どうして今ここに?」
「え、えとっ……今、ちょうど休憩中で。
そ、そろそろ休憩時間終わっちゃいますので、これで失礼しますっ!」
「あ、はい。頑張ってくださいね」
愛菜さんはまるで逃げるように、公園から走り去ってしまった。
逃げるように……と言ったが、それ以外に形容し得ない、そんな感じだった。
芽美ちゃんほどあからさまじゃないけど、
やっぱり僕は嫌われてしまっているんだろうか。
そう考えると、ちょっとだけ泣きそうだ。
「まぁ、自業自得だし、仕方ないか……」
「でもっ、少しずつ仲直りできるように努力しようっ!
せっかくの出会いなんだからっ!」
沈みそうになる心を無理やり叱咤し、
僕は待ち合わせをしている駅前へと、足を向けた。
寄り道をしたため、少しだけ早足で歩いてきたが、
今度はどうやら早すぎたらしい。
約束の時間には、まだ20分もある。
「まぁ、早すぎて困ることはないし、のんびり待つかな」
これから会う人が僕のことを見つけやすいようにと、
駅の出口からよく見える場所に立った。
(それにしても……おキヨさんにはほんと、お世話になりっぱなしだよなぁ……)
おキヨさんというのは、これから会う予定の人だ。
学生時代に僕の同人漫画を見て、
商業誌で書かないかと誘ってくれた、いわばこの業界での親のような人だ。
まぁ、親というには……外見がアレ過ぎて、
とてもそうには見えないんだけど……。
彼女は僕が描いている漫画の担当編集であり、
その漫画を載っけてもらっている雑誌の編集長でもある。
とってもとっても偉い人なのだ。
でもその偉さを鼻にかけない、とっても優しい人だ。
僕が会社を辞めたせいで親に勘当された時も、
親身に相談に乗ってくれて、住む場所のみならず仕事の世話までしてくれた。
業界での親であると同時に、社会的な命の恩人と言っても過言ではない。
僕は一生、あの人には頭が上がらないし、
足を向けて寝ることもできないだろう。
そんな事を考えていた時だ。
改札から出てくるその人を見つけた。
約束の時間には、まだまだ早い。
だというのに、その人は僕を見つけると小走りでやってきた。
「なんじゃ、もう来ておったのか。約束の時間までまだ20分もあるではないか」
手首に巻いた小さな時計を確認しながら、おキヨさんはそう言って笑った。
「そういうおキヨさんだって、随分早く来たじゃないですか」
「まぁの。乗り継ぎが上手いこと行ったというのもあるが、
人を待たせるのは妾のポリシーに反するでのぅ」
「いつも締め切りを守れと言っておる立場の者がルーズでは、
お主らも言うことを聞くまい?」
この人が、僕の恩人。今や親代わりの編集さんであるおキヨさんだ。
浴衣を着て、時代がかった話し方をする少し変わった女性。
背は低く、僕の胸くらいまでしかない。
相貌は幼く、パッと見は子供にしか見えない。
だがこれでも、れっきとした大人。
僕よりも年上だというのだから、世の中は分からないものだ。
「何じゃ、人の顔を見てニヤニヤしおって」
「あぁ、いえ。やっぱりおキヨさんってしっかりしているなぁと思いまして」
「ふん。おだててもチェックを緩くはせぬぞ?」
「分かってますよ。それよりここは暑いでしょう。
どこかお店に……と言っても、あぁ……すみません」
「僕まだここに越してきたばかりなので、
打ち合わせできそうなお店とかまだわからないんですよ」
「心配するな。妾が良い店を知っておる。ついてまいれ」
おキヨさんはそう言うと、扇子をパッと取り出し、煽ぎながら歩き始める。
小さな女の子のすぐ後ろを大人の男が着かず離れずついていくという
異様な光景に、通行人たちはほぼ100%好奇の視線を向けてくる。
でも僕はもう慣れっこなので、気にしない。
「着いたぞ。ここじゃ」
「おお……」
おキヨさんに案内されたのは、駅からほど近い喫茶店だった。
板張りの床や天井は、古いがきちんと手入れがされていて、
その古さがむしろ店全体をシックな雰囲気に導いている。
一口で言えばレトロ。
ココだけ時代の流れから切り離されているかのようだ。
どことなくだが、ほんの少しだけど、日向荘に似ている。
おキヨさんはここのマスターさんとは顔なじみらしく、
二言三言かわし、店の奥の席へと歩いて行った。
僕はマスターさんに会釈したのち、おキヨさんについていく。
「良い場所であろ?」
「はい。とても」
席について周りを見回した僕は、
『なるほど、確かに打ち合わせ向きの店だな』と思った。
特に、適度に物陰が多くて見通しが悪いのが素晴らしい。
ここならばエロ原稿をテーブルに広げても見咎められることはないだろう。
「この辺りで打ち合わせをするときはな、大体ここを使うのじゃ」
「へぇ、この辺り、他にも漫画家さんがいるんですね」
「おるぞ、わんさかとな。
まぁ、妾が直々にこうして出向くのは、お主含めて数人じゃがの」
「どうじゃ、嬉しいか?」
「はぁ、まぁ……」
「何じゃ、その気のない返事は。
妾に目をかけてもらっておる事をもっと有難がらぬか、バカ者め」
「あ、いえ……それはもう、とても感謝してますよ。
足を向けて寝れないなぁとさっきも思っていたところです」
「本当かのぅ? まぁよいわ。昼はまだであろ?
遠慮なく頼むが良い。この店はオムライスが美味じゃぞ」
「そうなんですか。じゃあ僕、それで」
おキヨさんは店員さんを呼びつけると、
僕の分だけオムライスをオーダーをして、自分はコーヒーを頼んでいた。
「おキヨさんは食べないんですか?」
「この前に打ち合わせが入っておってな。その時に食べたゆえ」
「そうなんですか。ほんとおキヨさんって忙しい人ですよね」
「まぁ、編集長ともなればのぅ」
しばらくするとオムライスが来たので、僕は手を合わせて食べ始める。
おキヨさんが言っていた通り、確かにおいしい。
卵はふんわりしてて、中のチキンライスもベットリしすぎていない。
「どうじゃ、うまいか?」
おキヨさんはニコニコしながら僕を見る。
「はい、とってもおいしいです」
まだ自炊を始めていないので、今の僕の食生活はコンビニ弁当中心だ。
引っ越し前もドタバタしててご飯を作れる状況じゃなかったし、
手作りの温かい料理を食べるのは久しぶりだ。
おキヨさんは僕が美味しそうに食べている様子を、
頬杖をついてじっと見つめている。
なんだか、ペットの食事風景を見てる飼い主みたいだなぁ、と思った。
「な、なんですか? あ、一口食べます?」
僕がスプーンをおキヨさんに近づけると、
彼女は面食らった様子で目をパチパチとさせた。
そしてその後、ムスッとした表情になる。
「お主の食べかけなどいらぬわ、バカ者」
「あ、そうですよね。すみません。でも、えっと……じゃあなんで僕を……」
「お主は本当に幸せそうに飯を食うなと、そう思っていただけじゃ」
「そんなに幸せそうに見えます?」
「見えるぞ。会社を辞めて明日をも知れぬ不安定な世界に身を置いたというのに……
何というかのんきじゃのう」
「明日をも知れぬって……さすがにそれは言いすぎじゃ……」
「妾が助け舟を出さなんだら、お主は今頃ホームレスじゃぞ?
そして今現在連載を持っておらぬお主は、
いつまたどん底に落ちてもおかしくはない」
「うっ……そ、そうですね。本当に、ありがとうございます」
僕はスプーンを置いて、改めて頭を下げた。
「あぁ、すまぬ。別に恩を着せようと思って言ったわけではないのじゃ」
「じゃが何というか……お主は危なっかしくてのぅ……」
「おキヨさんにそれを言われるの、たぶん5回目くらいです」
「5回も言わせるでないわ、バカ者」
おキヨさんはそう言うと、腹立ちまぎれに僕のスプーンを奪い、
オムライスの最後の一口を食べてしまった。
「あぁ、僕のオムライスがっ! そこ1番おいしいところだったんですよっ!」
「いつ何とき自分に不幸が襲い掛かってくるかわからない。
社会の厳しさをこれでまたひとつ知ることができたのう。妾に感謝せよ」
「してますよ……してますけど、この仕打ちはあんまりです」
「ところで……引っ越し先での生活にはもう順応したかの?」
おキヨさんがコーヒーを飲みながらそう訊ねてくる。
「あ、はい。おかげさまで、
あとは荷物を片付けて、作業に入れる環境を整えるだけです」
「住人の皆さんも、いい人ばかりで……」
若干1名ほど、僕を蛇蝎のごとく忌み嫌う女の子がいる事は、
ここでは伏せておく。
「おキヨさんには、ほんと感謝してます。ありがとうございます」
「よいよい。妾にはお主をこの業界に引きずり込んだ責任があるでな」
「最低限、お主の生活を支える義務がある。
それに、お主にはこれからもたんと漫画を描いてもらわねば困るしのぅ」
「はい。このご恩に報いるためにも、
おキヨさんのために精一杯頑張らせていただきますっ!」
「バカ者。若造のくせにいっぱしの口を聞くでないわ。
そういうセリフは自分で自分を養えるようになってからにするがよい」
「は、はい。すみません」
「あ、でも……意外でした」
僕は俯けた顔をすぐにあげて、おキヨさんを見る。
「なにがじゃ?」
「おキヨさんが、あんな古い、と言ったら失礼かもですが、
日向荘の大家の方とお知り合いだなんて」
「あぁ、そのことか」
おキヨさんはコーヒーに砂糖を一杯追加して、混ぜる。
「実は、妾も昔あそこに住んでおった時期があってのぅ。
そこを離れてからも、大家のばあさんとは連絡を取り合っておったのじゃ」
「へぇ、そうだったんですか」
「最初は妾に管理人をせぬかという話じゃったが、
知っての通り、妾にはこの仕事があるでな」
「さりとて、引退したがっておる婆さんの頼みもむげにはできん。
そんなとき、ちょうどよくお主がフリーになったので声をかけたという訳じゃ」
「むしろ、妾の方がお主に感謝しておると言ってもよい」
「おキヨさんが……僕に、ですか?」
「事の性質上、誰でもいいというわけにはいかんでな。
信用できる人間でなくてはならんかった」
「その点、お主はそういう性格じゃから、問題ない。
よくもまぁ、妾の周りにいてくれたものよ、とな」
「婆さんは引退出来て喜び、妾も肩の荷が下りて満足。
まぁつまり、別に迷惑などとは思っておらぬから、そう堅苦しく考えるでない」
「な、なるほど……」
「でも、おキヨさんに助けて頂いたのは事実ですから。
僕、ちゃんと恩返しできるように頑張ります」
「……ふん、好きにするが良い」
おキヨさんはコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込んだ後、
囁くようにそう言った。
「でも昔あそこに住んでたって、おキヨさんって本当は歳いくつなんですか?」
「レディーの歳を詮索するものではないと、習わなんだか?」
「あいてっ」
僕はおキヨさんにデコピンされてしまった。
「すみません、つい……」
おでこをさすりながら、僕は思う。
古風な話し方をするおキヨさんの歳を、僕は知らない。
歳どころか、本名さえ知らない。
出会ったときにもらった名刺にはおキヨとしか書いてなかった。
最初こそ怪しんだけど、別に不都合はなかったし、
本当に出版社の編集長だったしで、
それ以来何となく聞きそびれて、今に至っている。
考えてみると、この業界では本名にほとんど意味が伴わない。
それが誰であるかという役割さえ果たせれば、名前なんて何でもいいのだ。
僕だって、この業界ではペンネームの方が通りがいい。
僕の本名を知っている人なんて、ごくわずかだろう。
でも、もう5年以上の付き合いだというのに、
おキヨさんのことについて、僕はほとんど何も知らない。
そう考えると、少し……寂しくはある。
「……聞いておるのか?」
「え? あ、はいっ……もちろん聞いてないです。すみません」
「で、あろうな。まったく、せっかくアドバイスをしてやっておるというのに」
「アドバイス……ですか?」
「今日は仕事の話をしに来たが、別件でもうひとつ用があったのじゃ」
おキヨさんはそういうと、懐から茶封筒を取り出し、僕の前へとスッと置いた。
なんだかつい最近、見たことがある光景だ。
そう、歳田さんと加藤さんから家賃を受け取った時も、
この茶封筒に入れられていた。
でも……今目の前に置かれているそれは、厚みがやばい。
「あの……これは?」
「金じゃ。百万ほど入っておる」
「ひゃっ……くっ!?」
僕は思わずガタンッと席を立ち、飛びのいていた。
百万と聞いた直後、
茶封筒から並々ならぬオーラが発せられているような錯覚に陥る。
「落ち着け、百万くらいで何を驚く。
それにこれは日向荘の運営資金じゃ。妾が大家から預かっておいたものじゃ」
「な、なるほど、運営資金……ですか」
「掃除道具や換えの蛍光灯なんぞの備品を買うときはその金を使うとよい」
「あとは、なじみの工務店と不動産屋の連絡先も教えておく。
何かトラブルがあった場合はそこに連絡して、必要な経費もそれから払えばよい」
「決してそれ以外の用途で使い込んではならんぞ?
と……まぁお主なら言われんでもわかっておろうがの」
「は、はい。大丈夫です。しっかり金庫に入れて、管理しておきます」
「さて、伝えるべきことは伝えたし、渡すべきものも渡した。
あとは、本題である仕事の話と行こうか」
おキヨさんは先ほどまでの、どこか柔和な雰囲気を一変させた。
お仕事モードに入ったおキヨさんは、
まさに編集長といった顔つきをし、僕に訊ねてくる。
「次の連載じゃが、今のところどのようなものを考えておる?」
「はい。いくつかありますけど、今考えてるのはやっぱり、純愛ものですかね」
「純愛か……。お主は凌辱ものも評価が高いのじゃがな」
「ほれ、以前ロリっ娘ヒロインが悪の組織に捕まって
触手で穴という穴をほじられる漫画を描いたことがあるであろ?」
「は、はい、ありました……」
もうだいぶん慣れたが、それでも可愛らしいおキヨさんの口から
卑猥な言葉が出てくることに、僕はドキドキしてしまう。
「あれはずいぶんと受けがよかった。お主の絵柄とも水があっていたのじゃろうな」
「じゃあ……またその路線ですかね?」
「いや、お主は純愛も凌辱も色々描けるのが強みじゃ。
その根底に流れるエロへの執着さえ変わらねば、きっと良いものになるであろう」
「エロへの……執着ですか……」
「左様。童貞のお主は日々悶々と過ごしておろう?
溜まりに溜まりまくった精液を女子に中出ししたい。
種付けしたいと常に思っておるはずじゃ」
「常にそんなこと思ってたら、ただの変質者じゃないですかっ!」
「なに、違うのか?」
「違うに決まってるでしょう、全くもう……」
思わずツッコミをいれた時にテーブルがガタンと揺れ、
ボールペンが床に転がり落ちてしまった。
僕はため息をつきながら椅子を下げ、テーブルの下に手を伸ばす。
そして……気づいてはならないことに、気づいてしまう。