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【真守】







【真守】




【真守】

【高志】





【高志】

【真守】

【高志】

【真守】

【龍樹】


【真守】



【高志】

【高志】


【真守】

【龍樹】





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【高志】




【龍樹】


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【高志】



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【高志】


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【高志】

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【高志】

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【龍樹】



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【高志】


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【龍樹】

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【愛菜】

【芽美】


【真守】



【芽美】



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【芽美】

【高志】


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【龍樹】


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【真守】






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【愛菜】

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【愛菜】

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【愛菜】







【愛菜】

【真守】



【真守】


【愛菜】


【真守】

【愛菜】


【真守】





【真守】


【真守】

「ふぅ……」

僕はコンビニで買った夕飯を段ボールの上に置いた。

コンビニを探すのには思っていたより骨が折れた。

都心と違って、こういう郊外にどこにでもあるようでないのが
コンビニとガソリンスタンドだ。

途中で加藤さんに会って場所を教えてもらわなかったら、
多分まだ外をうろうろしていたことだろう。

「さて、少しずつでも荷物を出していくか」

でないと、いつまでたっても段ボールと生活を共にすることになりそうだ。

そして荷物の整理を始めて30分くらいが過ぎたころ、
玄関に面したガラス窓がコンコンと叩かれた。

「あ、はーい。開いてますからどうぞ」

「それじゃ、失礼するよー」

僕が荷物を床に置いて腰を伸ばしていると、
扉が開いて加藤さんと歳田さんが部屋に入ってきた。

まぁ、あの流れがあった後で鈴木姉妹が僕に会いに来る事はないよなと
思っていたけども。

「やぁ、片付け中にごめんね」

「加藤さん、さっきはありがとうございました。おかげで助かりました」

「なに、いいってことさ」

「それで、僕に何かご用ですか?」

「わしら、ちと坊主に渡さねばならんものがあってのう」

歳田さんたちは、手に持っていた茶封筒を僕に渡してきた。

「ん? これなんですか?」

茶封筒には何も書かれていないし、切手も貼っていない。

ということは、郵便物というわけではなさそうだ。

「家賃だよ」

「大家さん……前の管理人さんがいなくなっちゃったからさ、
 まだ今月の分渡せてなかったんだよね」

「なるほど。あの、中身を確認しても?」

「もちろんじゃよ。それが坊主の仕事じゃからのぅ」

僕は茶封筒を開け、中に万札が2枚ずつ入っているのを確認した。

日向荘の家賃は、共益費込みで一律2万円だ。

トイレ共同風呂なしという条件を加味しても、
この辺りではかなり安い物件なんじゃないかと思う。

「たしかに、受け取りました。えぇっと、ということは
 鈴木さんのところも家賃の支払いはまだってことですかね」

「そうなんじゃないかな?」

備えつきの小さな金庫に家賃を入れて、
あらかじめ受け取っていた鍵でロックする。

それから僕は領収書を書き、ふたりに手渡した。

「ほい、ご苦労じゃったな。
 しかし、越してきたばかりとはいえ、さっぱり片付いておらんのぅ」

「はは……お恥ずかしいです。こういうのはあまり慣れていないものでして」

「そうだ、荷物の整理手伝ってあげようか?」

この加藤さんという人は、本当に優しい。

人を見た目で判断してはいけないという見本のような人だ。

「いいんですか? あっ……でもやっぱり大丈夫です。
 じ、自分でやりますのでっ!!」

お言葉に甘えようかという思いがチラついたが、すぐにその考えを打ち消した。

この段ボール達の中身は、普通の荷物ではないのだ。

だから僕は段ボールに近づこうとする加藤さんの前に回り込み、開封を阻止した。

「おっほ、これはエロ本かの?」

しかし、敵はひとりではなかった。

振りかえると、おじいさんとは思えない俊敏さで別の段ボールへと接近した
歳田さんがすでにパンドラの箱を開いてしまっていた。

「って、うわっ、うわーーーーーーーっ! だ、ダメですって歳田さんっ!」

慌てて歳田さんに駆け寄り、一般人が見ればどん引き間違いなしの、
エロ本満載な段ボールのふたを閉める。

「うわ、こっちもだ。エロエロな本がぎっしりだね。
 この部屋にこの段ボール運び込んだの俺達なんだけど、道理で重いはずだよ」

「加藤さんまでっ!?
 あ、あの……運び込んでくれたのは、ありがとうございますっ!!」

「でもっ、いやっ! 見ないでぇっ!?
 これは違うんですっ、そう資料っ……これは資料なんですよっ!!」

エロ本の一冊をパラパラとめくりながら、加藤さんが小首をかしげる。

「資料って? 君は研究者か何かなの?」

「ぐっ、ぬぬ……。えっと……ある意味では、まぁ、そうかもしれないですね……」

日夜どうすればエロくなるかを考え、
それを紙に起こしているわけだから、研究と言えなくもない。

歳田さんと加藤さんの好奇心に満ちた視線に耐えかね、
僕は自分の職業について明かすことにした。

「僕……実は漫画家なんですよ。それも、エロいほう専門の……」

「学生時代からエロ漫画描いてたんですけど、
 会社に勤め出してからは漫画が描けなくなっちゃって」

「だからエロ漫画に集中できるように、会社を辞めたんですけど、
 そしたら親に勘当されちゃって……」

「行き場を失ってたところに、担当編集さんがここの仕事を紹介してくれたんです。
 何でも大家さんとお知り合いとか」

終わった……。

管理人がエロ漫画家だなんて、加藤さんも歳田さんも嫌に決まってる。

軽蔑されるのには慣れているけれど、
それでも決して嫌われたいというわけではないのだ。

とはいえ、こればっかりは……と思ったのだけど。

「エロ漫画家……良いねっ! すごく良いねっ!!」

「えっ……?」

加藤さんの反応は僕の予想していたものと、だいぶ違った。

「わしもエロいのは大好きじゃよ。
 よく高志が出とるエロでーぶいでーを貰って見ておるくらいじゃ」

そして、歳田さんも。

「エロDVD? 高志……って、加藤さんですよね?
 出てるって……どういう……」

「俺、実はAV男優なんだよね」

親指で自分のことをさしながら、白い歯を輝かせて加藤さんは言った。

「えっ……えーーーーーーーーーっ!?」

多分、今年1番の驚きだったと思う。

AV男優って、僕の中の認識ではセックスして
お金を貰えちゃう夢の職業なんだけど、まさか……加藤さんがそれだとは。

「じゃあ、じゃあ……色んな女の子とやりまくりってことですかっ!?」

「はは、そりゃそれが仕事だからね。そうなるね」

なんて、羨ましい……。

「はっ!? と、ということは……鈴木さんたちとも……」

「いやいや、それはないよ。言ったでしょ、彼女らは俺の妹みたいなものだって」

「AV男優にどんなイメージかぶせてるかは大体察しがつくけどさ、
 だったら理解できるんじゃない?」

「AV男優ってのはセックスすれば良いってもんじゃない。
 女優を感じさせて、その上で精子をいっぱい出さなきゃいけないんだよ」

「つまり、俺は精子で飯食ってるわけ。俺の精子は売りものなんだよ」

精子は売り物……。

そんな考え方も世の中にはあるのか。

「だから、俺は絶対に素人さんには手を出さない。俺が中に出すのは、女優だけさ」

「か、かっこいい……。僕もそんなセリフが言えるようになりたい……」

「あ、で、でもっ……一応管理人として改めてお願いしておきますね」

「アパート内でのもめごとは、なるべく起こさないようにしてください」

「うん、了解だよ。ここ気に入ってるし、追い出されたくはないからね」

「じゃが、それを坊主の口から言われるのは納得いかんもんがあるのう。ほっほっ」

「で、ですね……。僕も気を付けます……」

「聞いたよ。愛菜ちゃんの裸見たんだってね。どうだった?
 やっぱりおっぱい大きかった?」

「あ、あれは不可抗力なんですよ……
 っていうか、妹みたいに思ってるならここは怒るところでしょう?」

「妹の成長は兄としても気になるものさ。で、どうなの?
 D以上はあると思ってるんだけど……」

「し、知りませんっ! 僕には住人の情報をみだりにふれまわってはならない
 という守秘義務があるんです!」

「以降は黙秘権を行使いたしますっ!」

身体の前で手で十字を作り、これ以上の追及を拒む。

「仕方がないのぉ……おや、もうこんな時間か。
 残念ながら荷物の整理はまた後日じゃの」

「わしはそろそろ銭湯に行くぞい」

「あ、じゃあ俺も一緒に行こうかな。真守君も一緒にどうだい?
 案内してあげるよ」

「銭湯ですか? あ、そっか、ここにはお風呂ないから……」

「それは助かります。ぜひご一緒させてください」

まぁ、片づけはいつでもできるし、
まずはこの疲れ切った身体をお湯につけて、癒そう。

その後はご飯を食べて、今日のところは寝てしまおう。

そう思った僕は段ボールから洗面用具を取り出し、
ふたりと一緒に管理人室を出た。

「いやぁ、僕銭湯って初めてですけど、すごいですね。
 本当に壁に富士山の絵が描いてあって、感動しました」

銭湯から出た僕は、興奮気味に加藤さんたちにそう言った。

「ここはわしがガキの頃からやっとる銭湯なんじゃよ」

「へぇ、すごいですね……」

歴史を感じる建物を見上げながら、
銭湯を舞台にしたエロ漫画を描きたいなぁとか思った。

お風呂上りにコーヒー牛乳も飲めたし、大満足だ。

僕は意気揚々と帰り道を歩き出すが、しかし。

「あれ? 愛菜ちゃんに芽美ちゃん。君たちも来てたんだね」

との加藤さんの言葉に足を止め、振り返る。

「あ、加藤さん、歳田さん。こんにちは」

「げっ……変態もいる……」

芽美ちゃんが僕を見て、あからさまに嫌な顔をした。

「あはは、芽美ちゃん……さっきぶりだね」

僕は何とかしてマイナスイメージを払しょくしようと、
無理やり笑顔を浮かべて手を振った。

「つーん、だ」

でも、芽美ちゃんはプイッとそっぽを向いてしまう。

これは、相当嫌われてしまったらしい。

「あの……さきほどはすみませんでした」

愛菜さんが僕に向かって、頭を下げた。

「ちょっと、お姉ちゃんが謝ることじゃなくない?」

「まぁまぁ、そう目くじら立てなくても。
 あ、芽美ちゃんジュース飲む? 何でも買ってあげるよ?」

「え? ほんと? じゃあ、あたしオレンジジュースがいいな」

加藤さんは芽美ちゃんの扱いを心得ているらしく、
身銭を切って機嫌を直そうとしてくれている。

「あ、えっと……僕の方もその、不注意だったところがあるので。
 今度からは、気を付けます。すみませんでした」

僕も愛菜さんに向かって頭を下げた。

「ほっほ。これからはお互い一緒に生活するのじゃ。
 そうかしこまってばかりおると疲れるぞい?」

「ふふっ、そうですね。それではこの件はこれで終わりということで、
 改めてよろしくお願いいたしますね」

「はいっ! こちらこそよろしくお願いいたしますっ!」

歳田さんがとりなしてくれたおかげで、
愛菜さんとはギクシャクしなくて済みそうだ。

ホッとした僕の鼻に、ふんわりといい香りが届く。

何だろうと思ってクンクン嗅いでいると、
それが目の前の愛菜さんの身体から発せられているものだと気づいた。

「あぁ、お風呂上がりの女の子っていい香りがするなぁ。
 なんだかすごく色っぽいです」

「え、あっ……そ、そうです……か?」

「キッ! あんたまたそう変態めいたこと言って!」

オレンジジュースを飲んでご機嫌だった芽美ちゃんだが、
またもや僕の失言でイライラが募ってしまったらしい。

物凄い速さで僕と愛菜さんとの間に立ち、
狼……というには可愛すぎるにらみを利かせてきた。

「あ、ご、ごめんなさい。僕また……」

「いえいえ。大丈夫ですから……。
 それじゃ私達……スーパーでお醤油買って帰りますので」

せっかく溝が埋まったと思ったのに、
愛菜さんは僕から視線を反らし、立ち去ろうとする。

「あ、あぁっ、誤解、誤解なんですっ!! 僕はただ、
 いい匂いがするなって思っただけで、興奮するとかではなく、他意は別に……」

「あぁ、愛菜ちゃん。
 スーパーに行くならついでに真守君を案内してあげてくれないかな。
 俺、この後ちょっと用事があってさ。代わりに頼めない?」

「真守さんを……ですか? えぇ、私は構いませんけど……」

「はぁ? ちょっと加藤さん、勝手に何言ってるのよ。
 こんな変態と一緒に行くとか、あたしは絶対嫌だからっ」

「それじゃ、芽美は先に帰っていていいから……」

「お姉ちゃんと二人きりなんてさせられるわけないでしょ!
 どんな酷いことされるかわかったもんじゃないしっ」

「そ、そんな……いくら僕でも愛菜さんにひどい事なんてしないよ」

「ふん。変態の言う事なんて信じるわけないでしょ。
 お姉ちゃん、あたし別に薄味でいいから早く帰ってご飯にしよ」

芽美ちゃんは愛菜さんの手を掴み、引っ張る。

「あわわっ、引っ張らないで芽美」

「芽美ちゃん。
 いくら変態でも人がたくさんいる道のど真ん中で事に及んだりしないって」

「暗がりに引っ張り込まれるかもしれないじゃないっ!」

「ふぉっふぉ。ほんに、気の強い女子じゃのぅ。わしの昔のワイフに似ておるわい」

「えっ、おジイちゃんって結婚してたの?」

「あの……えと、今度僕ひとりでスーパー見つけますから、
 愛菜さん、今日は気にせず行っちゃってください」

「いえ、どのみちお醤油は買いに行きたいので……。
 私がちゃんとご案内しますから」

「ということで、愛菜ちゃんは譲る気なさそうだけど。芽美ちゃんはどうする?」

「一緒に行くのもお姉ちゃんと行かせるのも、どっちも嫌!」

う、うーん……これってどうすればいいんだろう。

「芽美ちゃん、真守君は変態だけど女の子を襲うような男じゃないよ。
 このままだと愛菜ちゃんも困らせるし、お姉さんに嫌われちゃってもいいの?」

「それはよくない……けど……」

「だったら大人の言うことを聞くことだ。いいね?」

加藤さんは芽美ちゃんの頭を優しくポンポンと叩いた。

「分かったわよ……。今回に限って、お姉ちゃんに同行することを許してあげる」

「その代わり、お姉ちゃんに何かあったら許さないからねっ!?」

「わ、わかった。愛菜さんは僕が責任もって守るから」

「ふんっ……それじゃあ、あたし先に帰るから」

芽美ちゃんはプンプンと怒りながら、足早に立ち去っていった。

「それじゃ、芽美ちゃんはわしが送り届けるかのぅ」

「悪いね。それじゃ俺もこれで。また明日ね~」

「はい。お二人とも、今日はありがとうございました!」

そして残ったのは、僕と愛菜さんのふたりだけ。

突然訪れた沈黙に戸惑い、僕は上ずった声を出した。

「そ、それじゃ……行きましょうか!」

「は、はい。どうぞ、こちらです」

愛菜さんの案内で、芽美ちゃんたちとは反対方向に歩き出すのだった。

駅近くにあるスーパーで買い物を終えた僕たちは、帰り道を無言で歩いている。

愛菜さんは本当に醤油しか買わなかった。

「あの、持ちましょうか」

僕は思い切ってそう言ったのだが、愛菜さんは首を横に振った。

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですから」

「ふふっ、それにしても驚きました。管理人さんが、こんな若い方だなんて」

また無言が続くのかと思ったけど、愛菜さんの方から話しかけてくれた。

「そうですよね。僕もまさか管理人の仕事を紹介されるとは思ってませんでした」

「紹介……というと、大家さんとお知り合いなんですか?」

「あ、いえ。そういう訳ではなくて。
 僕が仕事でお世話になってる人が、大家さんと知り合いなんだそうです」

「そうなんですか」

隣を歩く愛菜さんは、僕の話に何度も頷く。

その仕草が、なんというかとても女の子らしくてかわいらしい。

周りから見たら、僕と愛菜さんは恋人同士に見えたりするのだろうか。

もしも本当にそういう関係になれたら幸せだろうなぁ……
なんて、今日初めて会った人に抱く感情じゃないな。

「あ、そうだ。鈴木さんたちってご姉妹という事ですが、
 ご両親はどちらにお住まいなんですか?」

住人の構成を知った時から気になっていたことだ。

愛菜さんは見た感じ、大人というにはまだ幼い感じもするし、
妹の芽美ちゃんに至っては、完全に学生だ。

実家が遠くにあって、学校に通うために近くの日向荘で生活しているのだろうか。

「えっと……両親は1年前に、その、事故で亡くなりました」

「えっ……あっ……、あの、すみません。僕、無神経なこと聞いちゃって……」

「いえいえ、誰でも気になることでしょうから。
 今はあのお部屋で芽美とふたりで暮らしてるんです」

そう明るく言った愛菜さんだけど、
やっぱりその笑顔には、わずかに影が落ちている。

「そ、それだと……なにかと、大変そう、ですね……」

変なことを言わないようにと、
細心の注意を払って一言ずつ頭の中で吟味して口にする。

「あはは、そうなんです。
 遺産とか保険金なんて何もなかった上に、借金まで出来ちゃいまして」

「借金ですかっ!? だ、大丈夫なんですかっ!?」

僕が『美人姉妹』『借金』というキーワードで思い浮かぶのは、エロい事だけだ。

借金を返すため、身体を売って稼ぐ美人姉妹。

でも身体を売って男たちに調教されるたびに、次第に快感に溺れていって……。

というところまで妄想したあたりで、ハッと我に返った。

「借金と言っても、何千万もあるわけじゃないですから。
 何とかバイトをしながら返してます。そのおかげで、生活は貧しいですけどね♪」

「そうなんですか……。
 あの、何か困ったことがあったら、絶対に僕に相談してくださいね?」

「早まったことしたら、ダメですよ?」

「早まったこと? それはどういう意味ですか?」

「それはもちろん借金を返すために身体を売ったりとか……ってあーーーーーっ!
 僕はまた思ったことを口に……」

僕は頭を抱えてうずくまった。

「あ、あはは……。そういうのは考えてないですから、大丈夫ですよ。
 それに私なんかじゃ無理でしょうし」

「そんなことないですよっ!
 愛菜さんくらい可愛ければ、僕、毎日だって通っちゃいますってっ!」

「そ、そう……ですか? えっと、ありがとう、ございます?」

愛菜さんが好意的に見ても若干程引いている。

悪意に満ちた見方をすれば、ドン引きだ。

僕は自分の馬鹿さ加減に愛想を尽かし、肩を落とした。

「バイトって……今何をしてらっしゃるんですか」

とぼとぼと歩きながら、かといって沈黙には耐えられそうもないので話題を振る。

「ファミリーレストランでウェイトレスをしています」

「ファミレスですかっ!?
 どこのお店です? 僕頑張ってお金落としに行きますよ」

ファミレスと聞いては黙っていられない。

僕はファミレスには一家言ある男なのだ。

漫画のネームを描くときによく利用させてもらってる関係で、都内のファミレスのメニューはすべて頭に入っているし、制服も記憶している。

愛菜さんならどんな制服でも似合いそうだ。

これはぜひ、見てみたいと思った。

「あー、えっと……。その、お店は……恥ずかしいので内緒です。
 芽美にも教えてないんです」

「そうなんですか……残念です。
 ウェイトレス服を着た愛菜さん、ぜったい可愛いのに……」

「そんなことないですよ。私なんて、可愛くなんて、全然……全然……」

愛菜さんは地面を見下ろしながら『全然……』と繰り返す。

その視線は、近くを見ていながら、
どこか遠くを見ているような、おかしな感じだった。

「ええと、飲食店ってまかないとか出るそうですね。
 まかないが正式なメニューになったりもするそうですし、
 きっとおいしいんでしょうね」

微妙な空気を感じとった僕は、話題を明るい方向に持って行こうとした。

「えぇ……私のバイト先でも出るので、とても助かってます。
 今日もバイト先で食べてきて……」

と愛菜さんが言った端から、キュルルルッと音がした。

「……あ゛っ、わっ」

「いま、可愛い音が鳴りましたね」

「な、鳴っちゃいました……ね」

「というか、あの。バイト先で食べたって仰いましたけど、
 今日の夕方には部屋にいらっしゃいましたよね?」

「えっと、お昼っ……お昼に頂いたんです。
 今日は、バイト午前中だけでしたから……」

「それに、夜は食べないことにしてて……。
 太る、から……。ダイエット、なんです」

「ダイエットって……
 そんな事する必要ないくらい素晴らしいプロポーションでしたよ?」

言ってから、愛菜さんが折角なかったことにしようと言ってくれた過去を
蒸し返してしまった事に気付いた。

「あぁ、うっ……ほんとに、すみません」

「クスッ♪ いえ、褒めてくださってありがとうございます」

良かった、怒ってはいないらしい。

芽美ちゃんと違って、愛菜さんは見た目通り、
天使か女神の属性を備えていらっしゃる方のようだ。

都心部とは違って、街灯の少なめな道。

ふと見上げれば、たくさんの星が輝いている。

僕と愛菜さんは月と星に照らされた道を、ゆっくりと歩いて帰った。

「一緒についてきてくださって、ありがとうございました」

「あ、いえいえ。こちらこそ場所を教えていただいて助かりました」

スーパーからここまで、歩いて10分くらいだろうか。

駅までも同じくらいの距離にあることを考えると、結構好立地にあるらしい。

「それと、男手が必要な時はいつでもおっしゃって下さいね。
 いつでも駆けつけますので」

「ふふっ、ありがとうございます。あ……それと……」

愛菜さんはなにかを言いかけたが、その後に言葉は続かなかった。

「……はい、なにか?」

「あ、いえ……何でも、無いんです。
 今日はこれで、失礼しますね。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさいっ! また明日」

愛菜さんが中に入って2階に上がるのを見送ってから、
僕は玄関に鍵をかけることにした。

戸締りの確認を済ませて、
あとは日誌をつけたらようやく管理人としての1日の業務が終わりになる。

(……あ、しまった。
 せっかくだから家賃のこと愛菜さんに聞いておけばよかったな)

「でもまぁ、明日でもいいか。とりあえず仕事片づけてご飯にしよう」

僕のお腹も、ギュルギュルと鳴っているのだから。